Kodai_Note

耳を澄ますように古代を感じる試み。

「頭塔」が私たちに語りかけるもの

それは、民家のすき間から姿を見せた

春日山原始林を取材した帰り道、高畑界隈にさしかかった民家の家々の隙間から不自然な瓦が視界に飛び込んだ。あれはなんだろう?と訝しみながら近付くと、それは不可解な建物だった。ピラミッドのような四角錐、 5段ほどの石段で築かれ、所々に屋根が設えてある。建物というより、堂宇のフリークのような禍々しさがあった。新興宗教のモニュメントのようなものかと思ったが、Google Mapで調べて見ると「頭塔」と表示される。どうやら奈良時代に作られたもので、歴史のある建造物のようだ。

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奈良町にある元興寺を東に進むと民家に隠れて姿を現す。東大寺の寺域を元興寺の旧寺域から守っているようにも見える。

創建は二月堂のお水取りをはじめた僧 実忠

「頭塔」の名は、奈良時代の僧玄昉の頭を埋めた墓とされていたことが由来とされていた。しかし、近年では、東大寺別当の良弁の命により、実忠という僧が築いたとされている。この実忠という人は、土木工事にたけ、東大寺の創建と運営、その実務に携わった人物であり、二月堂修二会行法、いわゆるお水取りをはじめたことでも知られる。

 

良弁の命であったとしても、実忠はなぜこのようなものを作ったのか。私はとても強い興味をもった。発掘調査により遺構が解明され、復元整備が整ったというが、東大寺興福寺あるいは春日大社のお堂や神殿のような重要な建造物ならまだしも、その目的も定かではない不思議な建造物が埋もれずに残されたことも不思議であった。

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奈良のピラミッドとも呼ばれる「頭塔」瓦は大砲のようにも見え、好戦的な存在感を感じさせる。

その頃から、「頭塔」の佇まいは私の脳裏から離れなくなっていった。なんというか、『2001年宇宙の旅』のモノリス、あるいは『未知との遭遇』のデビルスタワーのようなイメージだった。奈良を訪れ、高畑にさしかかるたびに、私は「頭塔」を眺めた。あの瓦のある部分から、誰かがこちらを眺めているような妄想が頭をもたげる。古代からずっと「頭塔」に潜む古代の兵士が武器を手にして潜んでいるイメージだ。

 

謎の僧 実忠。渡来人、それもイラン人という説も

「頭塔」を築いた実忠だが、出自は未詳で、謎が多く、渡来人、それも、イラン人ではないかという説もまことしやかに語られる人物だ。彼がどのような想いで、何を目的に、どのような志向のもとに「頭塔」を築いたのか、そう考えるうちに、「頭塔」という建物と実忠という僧の存在が私のなかで大きなものとなっていった。

 

なんというか、実忠が、「二月堂のお水取り」や「頭塔」を通じ、今も何かを発信しているように思えて仕方がないのだ。よって、今後も、実忠や「頭塔」について、追っていきたい。