Kodai_Note

耳を澄ますように古代を感じる試み。

「こもりくの初瀬」宿命的な長谷寺の地形と信仰

本尊十一面観音像をはじめ、約千点にも及ぶ文化財を所蔵する長谷寺。四季折々の花が咲き、なかでもぼたんは約150種約7,000株が咲きそろうことから、「花の御寺」と称されている。

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車で向かうなら、三輪山の裾から初瀬川を遡って車で10分強。ほどなく、長谷寺の参道にさしかかり、門前町らしいお店や古い町家などが並ぶ。

ちなみに、長谷寺の一帯は古来「泊瀬」と呼ばれている。その名の由来は三輪山から長谷寺に向かう国道165号線の途中、朝倉小学校正門近隣に佇む柿本人麿による万葉歌碑にも見てとれる。

「こもりくの泊瀬の山の山の際に いさよふ雲は妹にかもあらむ」 


「泊瀬の山々のあたりにいつまでも去りやらずにいる雲は、あれは妹のかわった姿(火葬の煙)でもあろうか」という意味の挽歌だ。古代の泊瀬が葬送の地であったことを示している。

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さらに、注目すべきはこの歌にあるように、泊瀬(はつせ)という地名が他の歌にも出てくるが、それらの多くに「こもりく」というの枕詞が使われているということ。

「こもりく」は「隠国」と記し、三輪山との位置関係からみて神が隠もる国を示しているといわれている。泊瀬は長谷寺近隣を流れる大和川の上流となる初瀨川である。急流が流れる渓谷がもたらす地形から「初瀬流れ」と呼ばれ、清流が人々を潤し、時には荒れ、深刻な水害の元となった。そうした畏れから神が宿る聖地として位置付けられたのかもしれない。

長谷寺のご本尊である十一面観音像は10メートル以上もあることで知られるが、人々を潤しながらも、同時に壊滅的な水害で人々を苦しめる圧倒的な力を神として捉えたアニミズムのスケールがこの大きさの由来なのかしれない。

f:id:Kazuyasakurai:20180504101844j:plain Photo by Yuuko-san

ちなみに、現在、2018年5月31日まで16メートルもの大観音大画軸が公開されている。

1495年に罹災した本尊十一面観世音菩薩を復興再建するため設計図として作られたと伝えられ、長谷寺本尊十一面観世音菩薩とほぼ原寸大に描かれたもの。

f:id:Kazuyasakurai:20180504101746j:plain大観音大画軸は大きいため、建物に入らず、上記のように斜めに安置されている。Photo by Yuuko-san

ちなみに、ぼたんまつりは4月14日~5月6日、丁度いまが咲きごろかも。

爽やかなこの時期に足を運んでみてはどうだろう?

[近隣情報]

*茶房長谷路 駅から長谷寺への門前町にある「茶房長谷路」は、座敷から中庭の日本庭園を鑑賞できる趣あるお店。蕎麦や抹茶、甘味などが味わえる。写真右は抹茶(菓子/水のしづく付き) 500円。

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建造物は正確には「山田酒店(茶房長谷路)主屋」とする。文化8年の長谷川の氾濫後に建造された。木造つし2階建,切妻造,桟瓦葺。通りに面して店舗を構え,北側に食堂,茶の間,東側に中庭に面した和室を2室とる。江戸末建立の酒店として重厚な店構えを持つ。

 

All photo by Yuuko-san